精神科として外来診療を行っていると、知的障がいについての相談を受けることが多々あります。相談の内容は、不眠、多動、大声を出す、自傷、パニックなど多岐に渡ります。

 

 これらの行為が、自分や他者、周囲の生活環境に影響を及ぼしている状態を、行動障がいと呼びます。

 よく外来で遭遇するものとしては、自傷(自分の体を叩く、壁に頭を打ち付けるなど)や他害(噛み付く、引っ掻く、掴みかかるなど)、激しいこだわり(周りが止めてもその行動を止められない)、破壊行為、睡眠リズムの乱れ、多動(道路に飛び出す、窓から出ていこうとする等)、食事に関する問題(過食や偏食、異食等)などが挙げられます。


 これらの行為は、コミュニケーションの拙劣さ、強い関心や興味、関心や興味の限定、同一性へのこだわり、決まった手順への過度の執着や感覚過敏といった知的障がいの特性に起因することが多いと考えられます。

 行動障がいの背景に精神疾患が認められない場合には、環境調整や行動療法などの非薬物療法が第一選択とされ、特別な場合を除いて、入院治療の適応ではありません。


 さて、環境調整においては、構造化と呼ばれる手法がよく用いられます。

 一日のスケジュールを事前に確認したり、活動の場所を固定したり、一人で作業ができるように手順を視覚的にわかりやすく提示したり、知的障がいを持つ方々が理解しやすい環境を作る工夫のことを構造化と呼びます。


  しかし、構造化といっても、簡単ではありません。しかも、家族の生活を全て変える事は現実的ではありませんので、福祉サービスを活用することになりますが、支援事業所の数はまだまだ少なく、特に行動障がいの状態を支援できる事業所の不足は慢性的です。

 結局、疲弊されたご家族や支援者が、最終的に精神科に頼らざるを得ない現状が未だに続いているのです。


  ノーマライゼーション社会の実現を掲げ、平成18年(2006年)「障害者自立支援法」が施行されました。現在は改正がなされ、障害者総合支援法が施行されています。

 共に生きる社会の実現の理念のもと、地域移行、自立支援、就労支援等の施策が

強調されていますが、実態が伴っていないように感じます。

 地域での生活を前提とするのであれば、傍らで支えるご家族や、福祉サービスの充実が不可欠です。 


 整備が追いつかず、障害種別や地域ごとのサービスの利用に大きな格差が生じている現状を考えずに、地域移行だけを推し進めても、共に生きる社会の実現には繋がらないと思います。

 知的障がいを持つ方々が、地域で暮らせるために、支援体制の拡充が求められています。

                       代表取締役  大森 元

                           (精神科医師、産婦人科医師)